『天国の福音』


脳疾患


 脳疾患は種類が多く、脳溢血、脳充血、脳血栓閉塞、脳卒中、脳膜炎及び結核性脳膜炎、脳貧血、頭痛、眩暈(めまい)、圧迫感、朦朧感、重量感、焦躁感、憂欝、不眠症、嗜眠性脳炎(しみんせいのうえん)、脳脊髄膜炎、脳震蕩等であらう。

 脳溢血は、頸部又は延髄部に溜結せる毒結が浄化溶解して脳中に侵入、瞬時にして左右(いず)れか一方の腕、手指、脚に流下固結する。所謂半身不随である。重症は旺んにヨダレを流し、言語不明瞭又は頭脳に支障を来し精神上にも多少の変調を来す事がある。勿論此病気も浄化作用の為であるから放任しておけば時日を要するも大抵は治癒するものである。然るにそれを知らない世人は医療は(もと)より種々の療法を行ふが、それが反って治癒の妨害となり長引くのである。之に就て好適例がある。

 私が以前扱った五十歳位の婦人があった。
其人は東北の小さな或町の資産家の婦人で、偶々(たまたま)脳溢血に罹り、東京からも専門の博士等を招き、出来るだけの療法を行ったが、さらに効果なく、約二三年を経過した頃は幾分悪化の状態となった。然るに其頃、其町の(ざい)(ささ)やかな農家の五十歳位で右婦人と同時頃中風に罹った男があった。それが或日その婦人の家を何かの用で訪ねたのである。処が婦人は驚いて『貴方も中風で半身不随になったと聞いたが、今見れば何等の異常もなく健康時と変らないのは一体どうしたのであるか、どんな治療を受けたのか、どんな薬を()んだのか』と聞いた所、その老農夫(いわ)く、『儂等(わしら)は貧乏で医者へかかる事も出来ず薬も買へないから、運を天に任して、ただ寝てゐたが、時日の経つに従って、自然に治ったのである』と言ふので、その婦人は不思議に堪えなかったが、私の説を聞くに及んで初めて諒解がいったと喜んだのである。
之を以てみても如何に無療法が()いかが判るであらう。

 脳充血は、溢血の毒血が脳中に止って中風症にはならない。
ただ高熱、頻繁なる嘔吐、激痛、意識不明等で、多くは生命を落すのである。

 脳卒中は、脳の疾患中最も恐るべきもので今迄普通状態であったものが、突如として斃れ死去するので、速きは数十秒である。
此原因は首筋及び肩の極端な凝りの為である。即ち凝りが第一浄化作用によって極度に固結する場合、血管を圧迫する結果脳への送血が遮断されるからである。故に昔から卒中の場合、肩を剃刃(かみそり)で切り血を出すとよいと()ふのはその為である。近来医学で唱ふる脳血栓閉塞とは脳卒中をいふのであらう。

 脳膜炎は人も知る如く小児に多い病気であるが、大人にも(たま)にはある。
之は前頭部の浄化作用で原因は風邪等にて頭痛の場合氷冷を行ふ結果浄化停止され、それを繰返すに於て、漸次前頭部の溜結毒素が増加する。其結果其部に大浄化が起るのである。
小児はそれの遺伝である。医学に於ては脳膜炎は治癒困難となし、稀に治癒するも、予後精神的不具者となるので、非常に恐れられてゐる。
然し乍ら本医術に於ては一週間位にて完全に治癒し、予後も何等異常なきのみならず、寧ろ発病前よりも頭脳明晰となり、学童などは脳膜炎全快後成績優良に転ずるのである。此病気の特徴としては、前頭部が火の如き高熱と、堪え難き程の激痛及び視覚(くらみ)の為、不断に瞑目する事である。
以上三つの症状によって脳膜炎と断定して差支へないのである。
次に結核性脳膜炎とは、普通脳膜炎が急性なるに反し慢性的ともいふべきもので、経過執拗なのを医診は結核性といふので、実際は非結核である。

 脳貧血は、人も知る如く頭重、頭痛、憂欝、首肩の凝り等の症状あり、人混みや騒音等何等かの刺戟によって発作する。発作するや顔面蒼白、嘔吐、痙攣、眩暈等あり、甚しきは人事不省となる事もある。
此際額に掌を触るれば氷の如く冷へ、首の周囲を指査すれば必ず固結を認めるから、それを溶解すれば速やかに治癒する。
又脳貧血発作は苦痛様相の甚しき為、本人も周囲の者も驚くが、決して致命的ではなく必ず恢復するものである。

 近来最も多い文明病と()はれる脳神経衰弱は脳貧血の慢性ともいふべきもので、此病気を治癒する方法としては、風邪に罹る事が最も良いのである。
何となれば浄化熱によって原因である首の固結が溶解し、喀痰、鼻汁等になって排泄されるからである。

 頭痛は最も多い病気で、而も殆んどが慢性的である。
之は既説の如く風邪等によって頭痛の(おこ)る場合、浄化停止を行ふ為であるから頭痛の場合放任しておけば自然治癒するのである。
眩暈(めまい)、圧迫感、朦朧感、重量感、焦燥感、憂欝、不眠症等は、「病気症状と其解剖」中に説明してあるから略す。

 嗜眠性脳膜炎は、夏期炎天下に頭脳を晒す場合、太陽熱直射によって、肩部及び背部一円の毒素が小脳に向って集中するのである。
故に発病の場合、後頭部より延髄附近に毒素集溜し猛烈に弩脹(どちょう)する。其際毒素溶解法を行ふ時一時は柔軟になるも、忽ちに弩脹(どちょう)するといふ工合に(すこぶ)る執拗である。
然し乍ら根気よく施術するに従って漸次軽減し、一週間位にて快癒するのである。施術後両三日を経て、眼球及び鼻孔より多量の膿が流出し血液を混ずる事もある。右の如く、膿の滲出が些かでも認め得れば、最早恢復期に入った事を知るべきで、漸次恢復に向ふのである。
此病気は医学上恐れられてゐるが、吾々の方では治癒し易いものとしてゐる。医学の一部に、原因として蚊の媒介説があるが、(わら)ふべき誤説である。

 脳脊髄膜炎は、嗜眠性脳炎と酷似したもので、ただ異る所は、嗜眠性は膿が小脳中に流入するに対し、之は延髄附近で停止固結し、それ以上には進行をしないのである。
従而(したがって)、症状は延髄から脊柱へかけて硬直し、首は棒の如く前後へは曲らない。勿論高熱、頭痛、食欲不振等によって衰弱死に到るのであるが、本医術によれば、一二週間にて全治する。

 脳震蕩は病気ではなく傷害である。
之は勿論高所からの顛落又は打撲等によって内出血を起し、脳髄機能に支障を与へるので、軽症は生命に別条はないが、重症は生命にまで及ぶのは人の知る処である。
此重軽を知る方法として、最も適確なるは嘔吐である。嘔吐二三回位ならば、先づ助かるとみていいが、五六回以上頻繁に渉る場合と、昏睡又は耳孔や眼球よりの出血があれば、先づ生命覚束ないとみて間違ひないのである。

 脳疾患に就て知って置くべき事は、重軽を知る方法として嘔吐の多少による事が最も確実である。
ただ脳貧血のみは此例外である。